リレーションシップ・マーケティングと顧客マネジメント

  • 開催日:平成23年6月24日(金) 
  • テーマ:リレーションシップ・マーケティングと顧客マネジメント
  • 塾 長:大阪国際大学ビジネス学部准教授 日野 隆生 氏
  • 報告者:芦谷 幹生 

日本販売士協会登録講師でもある日野先生は、マーケティングでも「地域連携、産学連携、高大連携」などを中心に研究活動をされています。

今回は、マーケティング分野において、近年、盛んに研究が進んでいる「リレーションシップ・マーケティング」です。

1.リレーションシップ・マーケティング論

「リレーションシップ・マーケティング」は、わが国では1980年代から「関係性」マーケティングの概念とともに議論されてきました。

マーケティングとは、需要の創造とか、顧客の創造などと言われ、経営=マーケティングと主張されています。

すなわち、マーケティングとは顧客に対し、製品やサービスを提供することによって、顧客満足(CS)を高め、その対価として利益を得ると言われています。

2.リレーションシップとは、

製品やサービスの提供者であるサプライヤー(消費財・生産財メーカー)は、顧客である消費者、小売卸業者に対し、どのような「関係性」を構築すれば、顧客を新規に開拓したり、既存の顧客からリピートしてもらえるかということを研究することが重要となっています。

3.リレーションシップ・マーケティング

新規顧客に対するマーケティング活動は、通常、マネジリアル・マーケティングと呼ばれ、基本的に顧客との適合(ニーズ対応)を目的としています。また、顧客との関係の中心点となるのが、製品と顧客との関係にあるとしています。

顧客像は、潜在需要保有者(見込み客)であり、行動目的は、需要の創造・拡大にあります。コミュニケーションは、一方的説得型であり、タイムフレームは、一時・短期的。マーケティング手段としては、マーケティングミックス(4P)であり、成果物の形態は、購買・市場シェア(市場占有率)を目指す。

一方、既存の顧客に対するマーケティング活動はリレーションシップ・マーケティングと呼ばれ、相互作用を基本とし、企業との関係の中心点は、企業と顧客にあり、顧客は、相互支援者としています。

行動目的は価値の共有であり、コミュニケーションは、双方対話型、タイムフレームは長期継続型となる。マーケティング手段は、相互コミュニケーションであり、成果物の形態は、信頼・融合・顧客シェア(顧客占有率)となる。

しかし、通常、メーカーと顧客の顧客関係は、企業は商品を販売するに止まり、フォローは一切行わない。

その後、トラブルが発生すれば、対応的な関係になり、顧客が予約した場合には、企業は説明責任的な関係になって、不満や改善点を発見することができる。

販売員が販売後、今後の商品購入について、既存顧客に対して事前対応的関係として創造的な提案を行う。それらの結果、企業と顧客は、協働的関係に発展すると言われています。

4.顧客満足と価値創造のマーケティング

顧客との価値共有を重視するリレーションシップ・マーケティングでは、顧客満足(CS)を高めることが求められ、企業からのパフォーマンスが顧客の期待より高い場合、顧客は満足します。一方、企業からのパフォーマンスが顧客の期待より低い場合、不満を感じます。

そこで、企業は製品やサービスを提供する際に、知覚パフォーマンス(イメージ、ベネフィット、経済性など)を高める一方、顧客が負担するコスト(金銭的、時間的、心理的リスク)を低減することを目指しています。

つまり、企業イメージを高めるとともに、顧客のリスクを低減することによって顧客満足度の向上を図る。この顧客満足度には、顧客満足度指標、顧客生涯価値などが存在し、知覚品質と知覚価値(価格)のどちらかが顧客に強い影響を与え、顧客の生涯において、顧客満足度を高めることがリピート行動につながると考え、顧客との接触機会を創出することを狙っている。

例えば、小売業の場合、百貨店では高級感を演出するため、季節ごとのイベントや高価格帯での価格訴訟をして、顧客満足(ウインドー・ショッピング)を高め来店頻度を増やす工夫をしています。

スーパーでは、日常生活品をより豊富に取り揃え低価格訴求(エブリディー・ロー・プライス)して、利便性(ワンストップ・ショッピング)を高めて来店頻度を増やす工夫をしています。

両社とも会員カード制度を導入することによって、優良顧客(ロイヤルカスタマー)を囲い込み、売上収益の安定化を図っています。

5.顧客関係性マネジメント

リレーションシップ・マーケティングでは、顧客との関係性(コミュニケーション)が重視されることから、顧客との関係を双方向でのコミュニケーション手段によって深め顧客満足度を高め、顧客の生涯価値を販売後も、購入時と同じ価値として評価、維持する。

これを、カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)といい、個々の顧客の詳細情報を管理し、個々の顧客のロイヤリティーを最大化するためにすべての顧客の「タッチポイント」を入念に管理することとしている。

CRMの目標は、顧客との関係を管理すること、自社の提供する商品を知ってもらうこと、顧客の好みのチャンネル(趣味、嗜好、デザイン、価格等)を通じてコンタクトしてくるポイントからのコミュニケーションを調和させること、顧客との関係を維持するためにタイミングのよいコミュニケーションを図ることである。CRMを構築するためには、自社で顧客管理のためのデータベースを構築・維持・分析し、顧客志向の商品構成を目指し、顧客の個人情報を管理して、双方向の顧客との接触や取引によって、顧客シェアの占有率を高めることを目的としている。

顧客管理のデータベースを構築するには、会員カード制度を導入する必要があります。会員登録することによって、優良顧客(ロイヤルカスタマー)を囲い込み、売上収益の安定化を図っています。

すなわち、顧客シェアの向上、増大を目的としています。

6.むすび

リレーションシップ・マーケティングは、関係主体(メーカー、流通会社等)と既存顧客との長期継続的な満足と信頼に基づくリピート(継続的購買)によって、長期的視点での顧客の利益貢献を評価するマーケティング手法である。

リレーションシップ・マーケティングを導入するには、顧客データベース構築が不可欠であり、顧客を頂点とし、毎日、顧客と接する従業員を中心に、中間管理職、経営陣も顧客を知り、会社全体でサービスを提供することに関与しなければならない。

それが、最終的には、カスタマー・リレーションシップ・マーケティング(CRM)として、顧客の獲得、維持、ロイヤリティー、または顧客利益の増加のためのコミュニケーションを通じて顧客行動を理解し、企業全体からのアプローチが求められることとなる。

<所見>

米国・マネジメントの父と称される「P・F・ドラッガー」は、今年、生誕100年を迎えました。

ドラッガーは、経営=顧客の創造であると言っています。すなわち、マーケティングなのです。顧客が存在しなければ、売上収益を上げることができず、会社経営が成立しないためです。

今年、ドラッガー生誕100年ということで、多くの書籍が刊行され発売されていますし、日経MJにおいても2冊ランキング入りするという人気ぶりです。

7月1日付け日経MJ第2面において、書籍、映画、料理、TV番組などのランキングが紹介されています。

書籍部門<ビジネス>

書名                 著者        出版社

1位  日本中枢の崩壊       古賀茂明       講談社

2位  もし高校野球の女子マネージャーがドラッガーの「マネジメント」を読んだら

岩崎夏海       ダイヤモンド社

3位  エッセンシャル版 マネジメント 基本と原則

P・F・ドラッガー 上田惇生  ダイヤモンド社

4位  人生がときめく片づけの魔法  近藤麻里恵    サンマーク出版

5位  9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方

福島文二郎       中経出版

(6・28トーハン 調べ)出典 日経MJ 7月1日第2面

今年は、マネジメントの父・ドラッガー生誕100年に当たり、日本では、Gウイーク中、NHK総合でTVアニメ「もしドラ」が放送され、6月4日からは、人気アイドルグループAKB48が主演する「もしドラ」が映画化され、絶賛上映中ですので、ご覧になる機会がございましたら、ぜひ、ご覧ください。