師に学ぶ 経営の心

講 師:パナソニック株式会社 特別顧問
  (第四代 社長) 谷井 昭雄 氏
報告者:京 里美

 本年度第一回目の講演会はパナソニック株式会社(元松下電器産業株式会社)特別顧問(第四代社長)の谷井昭雄氏にご登壇いただきました。「師に学ぶ 経営の心」と題して、入社5年目にして始めて創業者である松下幸之助氏(当時会長)に直接声をかけられ、一設計技術士から経営のトップとなって、あらためて、師と仰ぐ松下幸之助氏から得た「経営の心」を短い時間ではありましたが、貴重な体験談を交えてお話いただきました。

 谷井氏は28歳でビデオテープレコーダーの開発・販売事業部門の設計技師として入社されました。ビデオテープレコーダーは当時ソニーが開発・販売のトップを走り、松下電器(現パナソニック)は後発企業。後にVHS対βマックスという対立は、規格争いの中でも歴史に残るビデオ戦争に発展した事業部でした。

 この時すでに松下電器では事業部制をしいており、その事業部制は生産性において大きな成功を収め、多くの企業経営者が松下電器を視察し、導入することになりますが、それは当時社長の幸之助氏がそれぞれの製品はそれぞれ専門でさせる方が良いというお考えからだったそうです。谷井氏は“「組織は形ではない」。だから、社長の想いが社員に伝わっていなければ、ただ真似てみても全ての会社でうまくいくとは限らない”と、その師である幸之助氏の想いを以下のように話されました。

1. 1人(事業)には1つの仕事に専念させる方が良い(個人の能力には限界がある)

2. 責任経営(各事業部に任せたら本部は口を出さない。結果責任は前向きに改善へ)

3. 人材育成(各事業部長を小規模企業の社長として経験させ、次期経営層を育てる)

 この3つの想いを社員も理解しマッチした会社がうまくいく。しかし放任はダメだと。

 谷井氏が初めて直に幸之助氏に声をかけられたのは、試作開発機械の説明報告のために真々庵に行った時だそうで、「君は技術屋か?品質管理は大事やけどもっと大事なのは人質管理や」。「君、商品を抱いて寝たことがあるか?抱いて寝たらモノを言うてくれる」と言われたそうです。つまり、”仕事は情熱を持って一生懸命やれば答えを出してくれるということを伝えたかったのだと思う。昔は人がものを作っていた。だから不具合も検討がつき改善できたが、機械化が進み、IT化(無人化)、AIの時代となり、人間が携わることが余りなくなってきて、不具合が起こってもどこをどうしたらいいのかわからなくなってきている。半世紀も前に師である幸之助氏が仰ったことがいまだに通じている。今こそ人間がしっかりする時代なのだとつくづく思う”と谷井氏は語られました。

 また、幸之助氏を人は「経営の神様」と呼ぶが、決してそんなことはなく、むしろ人間味溢れる方であったことも紹介された。まさに規格争いが始まろうと、ソニーの盛田氏がβ式に協力を求めてきた時も、2度までも谷井氏にソニーの商品をどう思うかを聞かれたそうです。結果的には松下電器はVHS側に加わり勝利しました。そのとき幸之助氏は「何かソニーに返せるものはないか?」と言われことに言及し、常に経営を考え、悩んだ「配慮の人」とその人柄を評されました。とても感動的なお話でした。
その他、貧乏で小学校4年までしか出られず、体が弱かったというマイナス面を人より早く社会に出て経験をつみ、できないことを人に任せることができたとプラスに受け止めた「素直で前向きな人」であったことも紹介され、この姿勢が「経営の心」に繋がっていると。

 最後に、顧客ニーズを掴むのは販売する方々でありものづくりには販売士の皆様は欠かせない力であるとエールを送っていただき、私達も感謝の気持ちを盛大な拍手でお応えしました。