IT活用と仕組みづくりが変える流通サービス業の『働きやすさ』と『生産性』


開催日: 平成30年11月1日(木)

テーマ: IT活用と仕組みづくりが変える、流通サービス業の『働きやすさ』と『生産性』

講 師: 流通ジャーナリスト 渡辺 米英 氏

報告者: 平井 淳文



 今年度、第2回講演会は、近年、流通業において注目をあつめる生産性の向上をテーマに、流通ジャーナリスト渡辺米英氏にお話をいただきました。
 講演会は、日本の労働生産性の状況の振り返りとして、2016年35ヵ国を対象とした調査で、日本は、20位であり、日本の生産性は全体で見るとまだまだ低いとの指摘から始まり、そこから店舗のIT化とAI活用の概要と、具体的な企業事例を3つ紹介いただきました。

 まず、小売業の生産性において、”仕組みづくり”が重要であることを、無印良品の成り立ちから現在を通し解説いただきました。まず、無印良品の成り立ちについては、元々SEIYUのプライベートブランドとしてスタートをして”わけあって、安い”という当時ナショナルブランドの持っていたムダを無くして同等の商品を安くしている話を、そして、現在の無印良品では、徹底したマニュアル化により、個人の経験や勘に頼っていた業務を定量化する事で仕組み化し、ノウハウとして蓄積することに成功している事をわかり易く教えていただきました。

 次に、天然エビの輸入・加工販売会社(株)パプアニューギニア海産では、「勤務時間の自由化」・「嫌いなことはしなくていい」制度の紹介がされました。どちらも、驚くような制度となっていますが、発想の根幹には、従業員が生きる職場にしようという決意があり、自分ならどんな制度が働きやすいか?という観点から生まれたものだそうです。一見すると無理があるような制度ですが、時間給のパートが対象であったことや、作業工程における得手不得手が、アダム・スミスの「神の見えざる手」のごとくうまく分散したことで、運用ができているとのことでした。そして何よりも、”嫌々出勤する場合と自分意思で仕事に来る場合とでは、結果的に仕事の効率や品質に大きな差が生まれる。”という自分の立場に置き換えて考えるとすごくわかりやすく、ある意味では、ハッとさせられる内容でした。

 そして最後に、大阪・千里で、40年以上営業を続けているセレクトショップ「FOCUS(フォーカス)」を紹介いただきました。フォーカスの一番の強みは、家族的な雰囲気との事で、まず、それぞれ個性を持ったスタッフ同士は、お互いに何でも言い合える関係で、チームワークが高く、お客様にもここでしか出来ないコーディネートを提案されているとの事でした。また、この家庭的な雰囲気の中、お客様もスタッフをニックネームで呼び、はっきりと本音をいってくれるそうです。さらには、得意先の営業マンも巻き込んで、メーカー、お客様、スタッフが正三角形となる「フォーカスファミリー」を形成しているとの事でした。ここでも人生の中で過ごす時間の長い職場を、いかに楽しい空間にできるか?という観点での仕組みづくりが見られました。


 今回の講演会を通して、ハード面においては、ITやAIの進化が今後も引き続き期待できる中、情報収集やその活用が必要となる。ソフト面では、人対人の対話を通じたより働きやすい仕組づくりが必要である。と感じました。そして、様々な企業事例を通して、「働きやすさ」と「生産性」という相反するように見える事柄が、実は、密接に関係しており、”働きやすさ=生産性の向上”といった一見すると不可能に思えることが、仕組みづくりを実行することで、多くの場所で可能になることを知ることができました。まずは、どのようにすれば働きやすいか?という観点で、施策し、その後、生産性に対して検証をすることが、仕組みづくりの第一歩となるのではないでしょうか