『行動経済学』を活用したリテーリングマーケティング
2023年度 第1回販売士塾報告
開催日:2023年11月15日(水)
テーマ:「『行動経済学』を活用したリテーリングマーケティング」
塾 長:大阪成蹊大学経営学部 教授 植田 真司 氏
報告者:糸島 節子
第1回目の販売士塾は、大阪成蹊大学経営学部の植田真司教授を講師にお迎えし「『行動経済学』を活用したリテールマーケティング」をテーマに開催されました。
まず、伝統的な経済学では人間は合理的であると仮定していますが、行動経済学では人間は感情の動物であり合理的ではないと考え、以下の理論の解説がありました。
1.プロスペクト理論/人間は損失を回避する傾向があり、確率的に不確実であっても見込みで期待値を歪めてしまうというもの。例えば、a.必ず80万円払う、b.100万円払うが15%の確率で払わなくてよいという選択肢があった場合、確率的にはa.の方が払う確率が低いにも関わらずb.を選ぶ人の方が多く、一か八かにかけて損失を回避したいという気持ちの表れだそうです。
2.ヒューリスティック/人間は直感的な意思決定を行うので、テレビCMで見たものなど記憶に残っているものを信用するクセがあるということです。
3.認知バイアス/先入観によって合理性を欠いた判断を下してしまう心理傾向のことで、一例として、アンカリング効果の説明がありました。先に与えられた数字がその後の判断に影響を与えて判断を歪めてしまうというもので、例えば、高い価格を提示した後で値引き後の安い価格を提示するとお得感が演出できるというものです。
4.ナッジ/人間の行動心理を利用して相手に気づかれないうちに選択を誘導することで、コンビニのレジ前にある足跡マークがあると、強制された感覚なしに足跡の通りに並んでしまうそうです。ナッジに似たものに、意識させて行動に誘導する「仕掛け」の紹介もありました。
5.アフォーダンス/モノを見たらどういう行動が可能か直感的に判断できるというもので、ドアノブの位置に金属の板が付いていたらドアを押せばいいことが分かる例が挙げられました。
6.アーキテクチャー/行動経済学では人の行動を物理的に制限するものをいい、飲食店で固い椅子を用意し客が自発的に一定時間で席を立つように操作する例が紹介されました。
7.ビジネス心理学/五感を活用したマーケティングが注目されており、中でも嗅覚の効果が高く、コーヒーや柑橘系の果物、カレーの香りなどによる売上アップの実証例が紹介されました。
8.経験価値/商品やサービスを購入したことで得られる経験に価値を見出してもらう「コト消費」を通じて、商品・サービスの認知度や好感度を高める手法で、経験にはSENSE:感覚的価値・FEEL:情緒的価値・THINK:認知的価値・ACT:肉体的価値・RELATE:関係的価値の5つがあります。例えばスターバックスは第三の空間として顧客にくつろぎを与える場所を目指しており、コーヒーを飲むこと自体が顧客の価値になることを意識しているということです。
今回の販売士塾では、消費者の行動を促す具体的な成功事例をご紹介いただいたことで、効果的なリテールマーケティングを考える上での気づきが得られました。第2回目が楽しみです。