ナンバンギセル (南蛮煙管)

花ライフコーディネーター 宮川 直子

会報誌「大阪販売士」第116号掲載(2009.10.1発刊)

秋の晴れわたる広い草原、ススキの穂波に圧倒される。しかし「南蛮煙管」の存在を知る人はどれくらいいるだろう。古名を「思草(想い草)」という。

「 道の辺の 尾花が下の 思ひ草 今さらになど 物か思はむ 」(万葉集 作者不詳)

かなり野趣にあふれた植物であるにもかかわらず、万葉集中でもたった一首。もしかすると、その時代もあまり知られていなかったのかもしれない。

 初めて出会ったのは、数十年前の葛城山。驚いた!ススキたなびく頃である。友人に教えてもらわなければ、そのまま気づかずじまいだった。

「尾花」とはススキのこと。「思草」はススキなどイネ科の植物に寄生するハマウツボ科の一年草。ススキの根元をかき分け、探してみなければほぼ出会わない。名づけ親には感服する。隠れるようにひっそりとススキに寄り添い、花首をうな垂れ、もの思いにふけっている。

古名の方が似合っていると思うのだが、現在定着している呼び名は「南蛮煙管」。この名は「南蛮人」が渡来し使用していた「煙管」の形に似ていた為、このように呼ばれるようになったとのこと。

花期は8~10月、淡紅紫色、変異で白花もある。2~3cmの筒状で先が五裂、土からいきなり花柄を出し10~20cmの高さで咲く。茎は地上にほとんど出ない。日本全土に自生し、中国中南部や台湾・インド・東南アジアなどにも分布している。

薬用としては、9~10月頃に全草を採取、乾燥させ煎じて服用。強壮や喉の腫れ・痛みに効くという。山野草店で入手可能。比較的育てやすいため、教材としても面白い。花後に採取した種は粉の様に細かく、イネ科やカヤツリグサ科の植物の根に直接こすりつけ再び覆土しておく。付ける種が多すぎると宿主の植物が弱る為少なめにつけることと、毎年あるいは2年未満で新しい宿主に換えることがポイント。

とにかく宿主のススキ等が元気であることのみを考えれば「南蛮煙管」は安泰。地味だが、形の変わった面白い花である。

この秋は「曽爾高原」あたりで、ススキの根元を探してみるのはいかが?

出会ったあなたは、何を思うでしょうか

<追記 2024.10.13>
・葉は退化しており、地中の根の近くにあります。小さな三角形の鱗片葉が数個 互生しています。
・「ナンバンギセル」は寄生植物です。葉緑素を持っていないため、自力で栄養を作ることができません。
 宿主は、ススキ・陸稲・サトウキビ・ミョウガ など多くあります。
・ご自分の庭で育てることもできます。 

【育て方】
残念ながら、栄養剤をやっても ひとりでは生きられません。必ず親草(宿主)が必要です。
ポイントは「親が元気なら子も元気」、親草の生育環境に気をつけることが第一。 
子が多くなり栄養を取られ過ぎると、親は枯れたり弱ったりすることになり、サトウキビやミョウガなど収穫作物が親草の場合には 被害が出ます。

鉢植えでも、直植えでもそんなに難しくないようです。
ネットや山野草専門店で、「すでに寄生している苗」や「種タネ」が入手可能。「種」の場合は愛好家に分けてもらうのも一案です。
・[苗]からの場合:秋の花後にできる細かい「種」を、翌春3~4月頃に宿主の根にまぶします。その繰り返し。
・[種]からの場合:最初に「宿主になる親草」を用意することが必須。あとは春頃、親草の根に種をまぶします。