ユズリハ (譲葉、楪)

花ライフコーディネーター 宮川 直子

会報誌「大阪販売士」第107号掲載(2007.1.1発刊) 

「ユズリハ」は「正月の木」とも呼ばれお正月や祝いの席を飾る。新年の季語でもある。「注連縄(しめなわ)」や「鏡餅」の飾り方は地域により、かなり異なるようだが「ウラジロ」や「橙」と共に「ユズリハ」の葉や枝も飾るとのこと。

「譲葉(ゆずりは)」は別名「親子草(おやこぐさ)」ともいうが、春に枝先に育ち始めた新葉がすっかり整ったのを見とどけてから旧葉がいっせいに落葉する(譲る)ことから名づけられたもの。世代交代をみごとにやってのけるため縁起物として扱われている。「葉」の命は2年とのこと、やはり子どもが一人前になるまで枝を離れないのだ。

初夏の頃は、新葉の明るい黄緑色と葉柄の紅色、そして旧葉の艶のある深い緑との色合わせは、はっきりとしていてとても美しい。また枝先の新葉はまるで平らに開いた傘のよう。同じ枝のすぐ下にある旧葉は少しすぼめた傘のようで、上下二段になっている姿は面白い。その境目あたりの葉陰に小さな花房をつけ、その花は秋には実になり熟す。実際に見たわけではないが、そのころに親の葉はいさぎよく散ってゆくようだ。

 福島県以西の暖かい山地に自生する10mにも達する常緑高木で、庭や公園にも植栽される。大阪でも充分育つはずだが街中ではあまり見かけない。千里の万博公園や大阪公立大学附属植物園などでは見うけられる。北海道や日本海側では、葉がやや小型の「蝦夷ユズリハ」が自生している。

古くから利用されてきた「ユズリハ」は万葉集では「ユヅルハ」となっている。

「古(いにしへ)に 恋ふる鳥かも 弓絃葉(ゆづるは)の 御井(みゐ)の上より 鳴き渡り行く」これは天武天皇の第六皇子である弓削皇子(ゆげのみこ)が吉野に旅した折に、かつての父の恋人であった額田王におくった詩。過ぎ去りし時代(旧葉)に想いをはせる優しい心づかいの詩であるといわれる。「弓絃葉(ゆづるは)」の名は葉の形の中に弓のようなカーブを見出したからであろう。

この「葉」は15~25cmの長楕円形で、厚めの革質。無土器時代には「ホオノキ」「カシワ」「サルトリイバラ」等と同様に食器として利用されていたが、今でも神棚への供物を盛ったり、お盆に敷いたり、また鏡餅をのせたりしている。

ところが樹皮や葉には毒性があり、誤食すると心臓麻痺や呼吸麻痺を起こすという。

しかしいろんな場面で利用されおり、さほど恐れる必要もないが手洗いは充分にした方が良い。煎じて駆虫薬に使うこともあるそうだ。

大阪ではあまり見かけないと思うのだが、新年には「注連縄(しめなわ)」に注目、「譲葉」をさがしてみることにしよう。

(2024.12.1 一部修正)