【ヤナギ (柳、楊) 】

会報誌「大阪販売士」第114号(2009.1.1発刊)より転載
2024/12/20:Web掲載にあたり一部改変


花ライフコーディネーター 宮川 直子

 「餅花」は お正月飾りのひとつ。
 「柳」の枝に「紅白のお餅」を小さくちぎって交互にくっつけたもの。花の無い季節、特に寒い地方の農家では新しき春の訪れをこの花に託す。うまく出来上がると「きっといい年になる!」と喜ぶ。
 地方により山の枯れ枝を利用する場合もあり、また餅花の色も紅白に加え、緑や黄色など色とりどりの所もあるとか。

 花の仕事師たちも「紅白」のものを作り、お正月用盛花に添える。最近では商店街の装飾などプラスチック製も多いが、料亭や和菓子屋などでは本物の「餅花」を飾っているところもあるだろう。

 “山の際に 雪は降りつつ しかすがに 
   この川楊は萌えにけるかも”(万葉集、作者未詳)

 これは早春の光の中のネコヤナギ。多くの柳の中で2・3月頃、最も早く花穂をみせる。万葉集では「楊」と「柳」の両方が使われ、前者は立ち木型、もう一方は枝垂れの方に用いられているらしい。

 「ヤナギ」と聞くと多くの人は「枝垂れ柳」を思い浮かべるが、「猫柳」のように立ち木型の方が断然多い。

 小学生の頃、校庭で猫柳の花穂を『発見!』皆で騒いだ。
 銀白色でツヤツヤとして触ると気持ちがいい!子猫のシッポのようだ。別名は「エノコロ柳」だが、その「エノコロ」とは子犬のこと、名の由来が面白い。この柳、以前は川岸などでよく見かけたが・・・。

 また尾瀬でのこと、足元の植物が広がるずっと先に高い木が・・同行の友人が「あれは、たぶん『ヤナギ』の一種、水を好む植物だから」と。遠くてよく見えなかったが大いに納得した。尾瀬は湿地帯なのだ。
 一方「枝垂れ柳」は街路樹として昔から人気。銀座の柳、城のお堀端、奈良猿沢池の周囲など。
 古くに中国から渡来していたらしく平城京の街路樹もこの柳だったそうである。

 世界では約350種、日本の自生種はその内30種。昔から暮らしに溶け込んでいる。
 新年の「雑煮箸」や、コリヤナギ(コウリヤナギ)を編んでつくる大きな籠「柳行李( ヤナギゴオリ)」には着物などを入れる等々。
 護岸樹や庭木・花材としても重宝で、残りを花瓶に挿しておくと生えた根でいっぱいになる。大変な生命力だ。

 薬用としては 樹皮を煎じて解熱・利尿に、さらに煮詰めて打ち身の患部にと利用されてきた。また、草木染にも使われ、赤茶色や金茶色に染まる。
 地味だが、大変有用で興味深い植物のひとつである。