マンサク ( 万作・満作 )

会報誌「大阪販売士」第111号(2008.1.1発刊)より転載
2025/1/10:Web掲載にあたり一部改変

花ライフコーディネーター 宮川 直子

 早春の山、残雪の中で「マンサク」は春を告げる。
 地味だが個性的なその花は黄色、1.5~2cmほどで小さい。花びらは細いリボンのようでもあり切り紙細工のようでもある。それが小さな蕾の中に折りたたまれヨレヨレに折りじわが付き、少し捻じれたように咲く。面白い花形である。

 その花びらは、豊作を喜び踊る人のようにも見え、黄色い花を枝いっぱいに咲かせることから農家では豊作を願い好んで庭に植える。ゆえに花名の「満作」は豊年満作からきているという説がある。又、早春に葉に先んじて「まず花」を咲かせる、あるいは万花に先駆けて「先ず咲く」「先んず咲く」が「マンサク」になったという説もある。「万作」の「万」は数の多いことを好むためか、このように書き表すことが多い。

 秋田の銘酒に「まんさくの花」がある。大阪谷町の空堀通り、何気なく入った飲食店で出会った。仕事柄、花名のついているものには何でも興味がわく。

 この時、店の主が“今日秋田から届いた”とかで仕事抜きで美味しそうに嬉しそうに一人で楽しんでおられた。初めての客にもかかわらず、すすめられ、ついご馳走になってしまった。「うんちく」もいっぱい聞いたような気がする。300年以上も続く秋田の蔵元で造られたもの。

 北国では、毎年春への想いを抱きながら寒くて長い冬を越してゆく、それが延々と繰りかえされる。山あいに残る雪の中「万作」の花を見つけた時の喜びと、その店主の笑顔がかさなる。

 昭和56年、NHK朝の連続ドラマ「まんさくの花」が放映された。

 舞台は秋田県横手地方、父親と三人の娘が繰り広げる物語。それを機会に新発売されたのが、そのお酒なのだそうである。

 「万作」は日本原産で、北海道から九州までの主に太平洋側に分布、葉先がやや三角形。変種の「丸葉万作」の方は葉先が丸く、日本海側に分布している。

 山里の暮らしとは非常に密着した小高木で、枝に粘りがあり強靭で利用価値は高い。柴や丸太を結束したり、雪国では「輪かんじき」を作ったりする。

 京都北山杉の筏流し、以前はその筏を組む時に使っていたそうだ。また白川郷では合掌造りの際には白川村の万作の若枝で材を束ねると聞く。薬用としても、乾燥させた葉を煎じ扁桃炎・口内炎などのうがい薬に、湿疹・かぶれにはその煎液で冷湿布する等。

 この花は北国に似合いそうだが、六甲山や神戸市の森林植物園でも見うけられる。都会でも庭や公園で花のない時期に彩りを添える。公園のものは花や木がやや大ぶりの「支那万作」が多く、「万作」より少し早めの1月から咲き始める。鉢植えや切花としての需要もあり、近年では赤花種も出回っている。

 寒い中 遠くまで行かずとも、たまには園芸店をのぞき 早春を探してみるのも、ゆったりとして良いかもしれない。