アザミ (薊)

会報誌「大阪販売士」第126号(2013.7.1発刊)より転載
2025/5/25:Web掲載にあたり一部改変

花ライフコーディネーター 宮川 直子

 「山には山の愁いあり 海には海のかなしみや ましてこころの花園に 咲きしあざみの花ならば・・・」

この「あざみの歌」は戦後の日本に流行した抒情歌。( 作詞:横井弘、作曲:八洲秀章 ヤシマヒデアキ )
横井氏は昭和20年18才で召集入隊、その年に終戦。復員後、疎開先の信州下諏訪 霧ヶ峰の八島ケ原湿原で出会ったアザミの花を、自分の理想の女性にだぶらせ綴ったものといわれている。昭和24年8月8日、NHKのラジオ歌謡として発表された。

 「アザミ」とはその仲間の総称で、世界中に300種以上ある。その内の三分の一が日本に分布し、その大部分が日本固有のものといわれている。キク科で、多くはアザミ属の多年草である。名の由来は諸説あり、古語でチクチクと痛いことを「あざむ」といったことが転じたとの説もある。

 北海道から沖縄まで、海岸・高山・里山と広く生育。「野薊(ノアザミ)」「野原薊(ノハラアザミ)」「森薊(モリアザミ)」などは比較的広範囲に分布している。地域性の強いものは 「千島薊(チシマアザミ)」「尾瀬沼薊(オゼヌマアザミ)」「屋久島薊(ヤクシマアザミ)」等々数え切れない。

 その中で「野薊」は日本のアザミを代表するもの。北海道以外の山野で普通に見かけ、アザミの中では春一番に咲き出す。5~8月直径4cm前後で紅紫色、時には桃色や白色の花を咲かせる。総苞(ソウホウ:花の基部の膨らんだ部分)は触るとネバネバしている。

一方、「野原薊」は秋咲き(8~10月)で本州中部以北に分布、総苞は粘らない等で見分ける。

 どの花も柔らかい針山のような半球形。一見 一個に見える花は、実は細い管状の花の集まり(管状花)なのである。別名「眉作り花(マユツクリバナ)」は、花の形が江戸時代の化粧道具に似ているためとか。

又、葉には深い切れ込みと鋭いトゲがあり「刺草(トゲクサ)」「千針草(センシンソウ)」とも呼ばれる。

 「薊」の文字については、どうして「魚」なのか不思議であったが、大きく切れ込んだ葉の形はまさに魚の骨、その先のトゲもそれに似ている。「刂」すなわち「リットウ(立刀)」は、刀のように刺すということに繋がっているように思える。

 西暦900年頃にはすでに「阿佐実」という記述があり食用・薬用に使用されてきたようだ。

 山菜として、若芽はてんぷらや和え物に、若い茎は塩で板ずり後にゆでて皮をむきてんぷらや佃煮に。又、秋には根を掘りあげてきんぴらや漬け物にする。信州土産で「山ごぼうの味噌漬け」として販売されているものには「森薊」の根が多く、最近は栽培もされている。

 又、全草を天日干ししたものを漢方では「薊(ケイ)」とよび、煎じて利尿剤・解毒剤・止血剤として利用。さらに葉や根の生汁は、やけど・はれもの・毒虫さされによいといわれる。

 要注意は、ヤマゴボウ科の「ヤマゴボウ」や「ヨウシュヤマゴボウ」。強い毒性があり、アザミの仲間ではない。

又、大型の「アーティチョーク」(別名「朝鮮薊」)は、ヨーロッパやアメリカで広く利用されている。
高さ1.5~2m、葉は50~80cm。開花直前の10~15cmの蕾を収穫し料理する。ハーブティとしては二日酔い防止など、味を楽しむよりも薬効に期待して飲む。

花壇・鉢植え・切花ともにインパクトのある装飾になる。花後に管状の花を取り去ると、下から毛(冠毛:カンモウ)が出てきてパフのようになり面白い花材となる。

 一方、優しい姿のものは「ドイツ薊」で野薊の園芸種。5~10月に流通。ドイツとは関係がなく大正時代に切花用に改良された。別名「花薊」ともいう。四季咲き性が強くトゲも少なめである。

 夏の霧ヶ峰高原では高山植物にまじり、いかにも日本的なアザミが咲いていることだろう。八島ケ原湿原は国の天然記念物に指定されており、横井氏が散策した頃とほとんど変わっていないと思われる。

入口には「あざみの歌」の歌碑が立っているとのこと。

※「薊」漢字表記は固有名詞、「アザミ」カタカナ表記は、総称の場合に使用しています。