ユリ (百合)
会報誌「大阪販売士」第88号(2002.6.30発刊)より転載
2025/6/23:Web掲載にあたり一部改変
花ライフコーディネーター 宮川 直子
初夏から夏にかけ、日本全国の山野ではユリが次々と花をひらく。
わが国は野生ユリの宝庫なのだ。
清々しい木々のこぼれ陽の下、静かに咲いている風景に思いがけず出会った時など とてもそのまま通り過ぎることは出来ない。しばらくじっと見入ってしまう。
清楚で美しいユリは、古今東西、美しい女性の代名詞になっているのも頷ける。
「早百合」「由利」「百合子」という名の女性は多い。
同様に海外でも、英名のLilyから「リリー」「リリアン」、又 フォスター作曲「おおスザンナ」の「スザンナ」はヘブライ語由来の名で、そこから「スーザン」「スージー」等々。
特に“白い百合”は花言葉も「純潔・無垢・淑女」等で、女学校の名前などにも“白百合〇〇〇”は珍しくない。『清らかで美しく』と願った故であろう。
以前『白百合のウェディング・ブーケ』をつくった。花嫁の希望は「テッポウユリ」だけをと。開花したものと蕾とで50輪余りも使ったが、豪華だが賑々しくなく上品な仕上がり。美人の彼女には素晴らしく似合っていて大好評。自分の名と同じ「ユリ」を、とのことだった。
テッポウユリ同様、ウェディング・ブーケによく使われるユリに「カサブランカ」がある。
これは直径20㎝余りもある白い大輪のものだが、元になっているのは日本原産のユリ達。そのままでも充分美しい日本の野生ユリが海外の人々の目にとまり、ニュージーランドで品種改良、日本へ逆輸入されて来た。
ひと昔前の日本女性と現代の日本女性との“美しさ比べ”のような気もする。
室町時代に野山に咲くユリを切花として楽しむことが盛んになった。
江戸時代末期頃からは我が国でも改良が徐々に進んでいったが、野生ユリの美しい日本では、あまり手を加えたくなかったのだろう。海外の方が改良に熱心だったようだ。
観光地でもユリに熱い視線を送っているが、奈良の大和文華館の庭で「ササユリ」、蒜山高原近くの山地で「ウバユリ」、北海道の札幌近郊では「スカシユリ」にと、偶然出会った時の感動はわすれられない。
よく耳にする「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」声に出してみると、やはり、美しい女性の姿が目に浮かぶ。
「歩く姿」に「ゆり」があてはめられているのは、華奢な細い茎に美しい花をつけ、それが風に「揺れる」さまからきているのだろう。「ゆり」は「ゆる」「ゆすり」が転じたと聞く。
さらに「百合」は「百合の根」、地下の球根の鱗片(りんぺん)が幾重にも重なり合った様子からつけられたそうだ。この“ゆり根”特に山百合や鬼百合のものは、縄文時代から大切な食用。今でも卵とじや旨煮にしたりする。さらに粉末にして練りこんだ“百合麺”をつけ汁で食すそうで、これはまだ味わったことの無いあこがれの味である。
又民間薬としても役立ってきた。花は乾燥後粉末にして傷の止血剤に、鱗片はつぶして酢と混ぜあわせ できものなどの治療につかうとのこと。美しいだけではなかったのだ。
「ユリ」の面白い観察、楽しみ方をひとつご紹介。
花の咲いている『向き』が3つあること。
「透かし百合」は上向き、「てっぽう百合」「乙女百合」「山百合」等は横向き、「鹿の子百合」「竹島百合」等はやや下向きか下向き。
加えて花色も最も好まれる白のほか淡いピンク、濃い目のピンク、黄、オレンジとさまざま。「鹿の子百合」のように鹿の子絞りのような模様の入っているものなどもあり、絵のモデルとしてもなかなか個性的なのである。
観察日記をつけてみるのも楽しい。
万葉集に『道の辺の 草深百合(くさふかゆり)の花笑みに 笑みしがからに 妻といふべしや』(作者不詳)とある。この『花笑み』という言葉は、ユリの蕾が膨らんだ様と、美しい女性が微笑んだ様を重ね合わせているが ユリの花だけに使われる言葉なのだそうだ。
この歌は『道の辺の草深い所に咲いている百合がほころんでいるように、ちょっと微笑みかけただけで、妻と決まったようにおっしゃるのは困ります』と言っている。
このあたりの心のすれ違いは、いつの時代も変わらないようで面白い。






