クリ ( 栗・久利 )
会報誌「大阪販売士」第110号(2007.10.01発刊)より転載
2025/9/20:Web掲載にあたり一部改変
花ライフコーディネーター 宮川 直子
もうすぐ「十三夜」のお月見がやってくる。
「中秋の名月」に対して「後(のち)の月見」ともいわれ、今年は11月2日、我が国独特の風習である。
満月より、ほんの少しだけ欠けた微妙な形の月をよしとするのは日本人の感性だろう。
「栗名月(くりめいげつ)」「豆名月(まめめいげつ)」とも呼ばれ、その時期の収穫物である栗や枝豆を供えて感謝する。
10月6日の「中秋の名月(十五夜)」は中国から伝わったもので、「芋名月」と呼ばれ、サトイモを供える。
初夏の山に入ると、独特のむせ返るような甘い匂いが漂ってくる。「栗の花」だ!
あたりを見渡すとすぐに見つかるが、知らない人は目前にあってもわからない。花のようには見えないのだ。淡黄色で細長い花穂が枝先にフサフサと群がって咲き、遠くからはまるで新芽のよう。あまり良い匂いには思えないが、虫たちにはたまらないようである。
秋になると黒い実になり、イガの中に1~3つが収まる。その「黒実(クロミ)」が「クリ」の語源になっている。
栗は、日本各地の山地に自生しており、富山県の桜町遺跡や神奈川県小田原市の羽根尾遺跡では、縄文時代の栗の実の化石だけでなく、柱や木製品の破片なども発見されている。
まだ稲作の伝わっていないこの頃から、すでに日常的に利用されていたようだ。
実の保存法には、「搗ち栗(かちぐり)」と「砂栗(すなぐり)」にわけられる。
前者は乾燥させたものを臼で搗(つ)き殻を除いたもの。もう一方は短期保存法で、砂や籾殻(もみがら)の中に貯蔵したものである。
戦国時代には「勝ち栗」、すなわち「搗ち栗」を好んで儀式などに使っていた。
栗の実はタンニンの多い渋皮でガードされているが、その木にも多くのタンニンが含まれる。そのため水湿に強く、シイタケ栽培のほだ木にも使われる。
栗の木の材質は堅いが加工は容易で、建物の土台・柱・鉄道の枕木・杭・橋などに使用されてきた。
国内産の木材としては高級品で、漆器木地や彫刻材、鏡台・本箱などにも使われている。
薬用としては、実・樹皮・根・葉などが利用されてきた。
うるしかぶれや虫さされ、あせもなどの湿疹には、煎じた汁を冷湿布として用いる。
また、栗の実に含まれる澱粉は良質で、ミネラル分も多く消化も良いため滋養強壮効果は大きいとされる。
日本原産の「シバグリ」は小粒で、それを改良したものが大粒の「丹波栗」。
いずれも「日本栗(英名:ジャパニーズ・チェストナッツ)」に属し、共通して渋皮がむきにくい。近年はその改良も進められている。
中国栗「シナグリ」は小粒ながら甘味が強く、「天津甘栗」で知られている。ちなみに、この「天津」は栗の生産地ではなく、中国内陸部で採れた栗を輸出する際の積出港の名(天津港)である。
ヨーロッパ栗「スウィート・チェストナッツ」は大粒で味がよく、マロングラッセに最適。また、北米原産のアメリカ栗の実は、やや縦長の形をしている。
このように「栗」は世界各地で栽培され、私たちを楽しませ、暮らしを支える優れた木でもある。
さて、「十五夜」に比べ「十三夜」は不思議と晴天が多いと聞いた。
今年の天候はどうだろう。
「栗」と「枝豆」を携えて、大川あたりへお月見ツアーを企画するのはいかがかと・・・。
【追記】
◆「仲秋」と「中秋」について
・「仲秋」は、太陰暦の二十四節気の 「白露」~「寒露」の前日までの約1か月間をいう。
・「中秋」は、その日1日だけをさす。
◆今年の「十五夜」と「十三夜」のまとめ
・「十五夜」:10月6日―「中秋の名月」
別名「芋名月」 ※満月は10月7日
・「十三夜」:11月2日―「後(のち)の月」
別名「栗名月」「豆名月」 ※満月は11月5日




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