ヤブコウジ ( 藪柑子)
会報誌「大阪販売士」第122号(2012.1.1発刊)より転載
2025/9/20:Web掲載にあたり一部改変
花ライフコーディネーター 宮川 直子
『 この雪の 消残(けのこ)る時に いざ行かな 山橘の 実の照るも見む 』 大伴家持(万葉集)
これは白い雪に映える真紅の実の美しさを詠んだもの。
「山橘(やまたちばな)」は、古くから縁起木として新年や長寿を祝う席などに飾られてきた。
現代名は「藪柑子(やぶこうじ)」である。「橘」とは柑子ミカンの古名で、山に生えるミカンに似た木という意味。「柑子ミカン」とは40g程の小粒のもので日本の固有種である。
新年を寿ぐ(ことほぐ)さまざまな赤い実には、希望と生命の躍動が感じられる。
鉢植えの「万両(まんりょう)」、床の間を飾る生け花の「千両(せんりょう)」、それらの豪華さ 華やかさにはかなわないが、「藪柑子」には秘めた本物の実力があるように感じられる。
「藪柑子」は、照葉樹林の下、少ない陽を求めて地下茎をゆっくりと伸ばし 生き場所を探す。樹高はわずか10~20cm、薄暗いなか艶のある葉と赤い実はよく目立ち、しばしば群生している。
「実」は直径5~7mmほどで、1本に3~4個ほどしかつかない。夏に直径5~8mm位の白い花を咲かせ、秋には実をつけ、2・3回霜にあたる頃には真っ赤に色づく。その「実」は鳥などに運ばれる時がくるまで「落ちてはなるものか」と冬中しっかりとくっついている。
又「葉」の寿命は相当長く、同じ葉を数年つけ続けているそうだ。やはり、ただものではない!
さらに、その地下茎や茎葉には薬効もある。漢方では生薬名を「紫金牛(しきんぎゅう)」「紫金牛根(しきんぎゅうこん)」と呼ぶ。気管支炎や湿疹・できもの、利尿薬として使われているとのこと。
この人気の「藪柑子」は、万葉集や古今和歌集、源氏物語にも登場する。
又、落語の「寿限無(じゅげむ)」には、やっと授かった子どものお目出たい名前の一部にも。「寿限無寿限無…」で始まり、「…やぶらこうじのぶらこうじ…」と。
この「やぶらこうじ」が「藪柑子」である。江戸時代には子どもの髪飾りに、又、江戸琳派の絵師たちにも好まれ描かれている。
当然、盛んに品種改良がなされ、特に江戸時代中期以降にはブームになった。
その後 明治20年代、新潟県小合村を中心に「藪柑子の投機騒動」が起こった。1株で家一軒が建つほどのものもあったという。明治29年には県知事が売買禁止令を発したことが記されている。
植物は本来「心」を表すもの、万葉の時代を忘れないでいたいものだ。
「藪柑子」には別名が多く「十両」や「藪橘」「赤玉の木」とも呼ぶ。
他にも赤い実のものに「万両」や「千両」、「百両」、「一両」という名のものもある。
実の数の多少や姿形により名がつけられ、「百両」は「唐橘(からたちばな)」、「一両」は「蟻通(ありどおし)」のことである。さらにヤブコウジのコウジは「好事」にも通じると縁起をかつぐ人もいる。
現在、この日本の古典園芸植物「藪柑子」は、グランドカバーや観葉植物として人気がでているようだ。育てるのも手間いらず。種まき・株分け・挿し木で増やすことができる。
コンパクトなためベランダ園芸などにも適し、南天やトクサ等との寄せ植えや苔玉作りの材料に使えるのも嬉しい。







