竹中大工道具館

見学先:竹中大工道具館
報告者:服部 真樹

2月16日、新神戸にある「竹中大工道具館」を大阪販売士会の総勢20人で訪問しました。


 この博物館の特徴は「きれいな物を積極的に飾っていない」ことです。大工道具は、装飾品の要素を持つ日本刀などとは違い「いいものほど使い込まれる」のが特徴です。その結果、「品質のよいものほど摩耗するまで使われ、消滅する」(同館のホームページより)わけです。裏返すと「きれいなまま残っているのは道具として使い込まれなかった」ということになります。大工道具を作る方も「匠」であり、使う方も「匠」という真剣勝負が「道具が使い込まれるか否か」という、大工側の日常の継続の中にあるのです。


 展示の手法は十分に練られたもので、ビデオや実物で興味を引かれます。名言だと思ったのは、石斧と鉄斧のビデオで「石斧は叩いて繊維を潰す。鋭い鉄斧は繊維を切断する。」というもの。歴史の教科書にぜひ入れてほしい言葉です。木を切り倒すには、石斧だと「打撃931回、約27分」かかるのが、鉄斧だと「520回、約19分」で完了します。回数を4割5分、時間を3割カットできるわけです。石器時代→鉄器時代の変化を目の当たりにした気がします。少し時代が下って平安時代(十世紀)。ビデオに松崎天神縁起(制作は応長元年・1311年)が収められており、北野天満宮の再建の様子が分かります。当時の大工道具とその使い方が描かれており、大工さんたちが生き生きと働く様子が分かります。この時代(平安時代・鎌倉時代)になってくると、ほぼ私たちの想像できる形にまで進化してきています。


 私が息をのんだのは「大工道具の標準編成」でした。名匠が使ったものであればあるほど残らないのが実際ですが、これは昭和10年代に使用されていた170点強。鉋だけで20種以上、鋸がざっと14種、鑿は何種類あるか分かりません。きれいに並べられていますが、どこか武骨な印象があり、数多くの建物の構築に携わってきた道具が野太い声で話しかけてきそうです。


 唯一、美しいと思ったのは、同館の中心の吹き抜けの7メートルを超える「原寸大の唐招提寺金堂の柱と組み物」。目の前の唐招提寺の金堂の全体図が浮かんだような気がしました。荘厳ささえ感じました……。一瞬置いて、先のガラスケースに飾られた大工道具が「俺たちの先輩がいなけりゃ、これもできなかったんだよ」と、言った気がしました。周囲を見回すと、大工道具が微笑んでいる気がしました。